特集「フライングカー・コーポレーション」インタビュー vol.04

フライングカー・コーポレーションを
社内講師から社外講師による実施へ

積水化学工業株式会社 人事部 人材マネジメントグループ
人材開発チーム 岡村 裕之 様・津滝 佳世 様

積水化学工業株式会社
積水化学工業株式会社 岡村裕之様・津滝佳世様インタビュー

「全従業員が挑戦したくなる活力のある会社」の実現を目指す

梶原
よろしくお願いいたします。まずは、積水化学工業様の事業内容について、お教えいただいてよろしいでしょうか。
岡村さん
弊社は、従業員数が、グループ会社150社含め従業員2万7千名ほど、積水化学単体で4千名弱です。売上規模は年1.2兆円ほどです。具体的な事業内容は、化学の様々な加工技術で、住宅、社会インフラ、メディカル、エレクトロニクスなどの製品を提供しています。事業を通じて、社会課題解決を目指しています。
積水化学工業の事業イメージ
梶原
ありがとうございます。それでは、御社の教育研修の取り組みについて教えていただけますか。
岡村さん
弊社では、経営計画に伴った人事戦略を組んでいます。「全従業員が挑戦したくなる活力がある会社」を実現するために、役割を軸とした人材マネジメントの転換を図っています。能力に見合った職務を渡すという旧来型の人事制度を変換し、グループを牽引する役割に対して必要な人を配してくという方向にしていくというものです。
梶原
なるほど、これまでの国内企業の多くは、いわゆる職としての成果を上げた社員、「仕事の実績をあげた、特別な技術や顧客を持っている」社員を、そのままマネジメント職に就ける傾向がありましたが、御社の目指す「役割」とは、組織やグループ、チームのマネジメントにおける役割という理解でよろしいでしょうか。
岡村さん
はい、そのようなイメージで捉えていただいてよろしいかと思います。
梶原
ありがとうございます。さて、人材開発について、もう少しお話を聞かせてください。先ほどの「全従業員が挑戦したくなる活力がある会社」は、本当に素晴らしいビジョンと思いました。さらに、詳しくお教えいただけますか。
岡村さん
弊社には、「従業員は社会からお預かりした貴重な財産である」という人材理念があります。少し特徴的な考え方なのですが、それを基本に、従業員が活き活きと働くことができる環境を作っていくというのが、弊社の人材基本戦略です。
梶原
社会貢献を強く意識されている御社ならではの考え方ですね。その内容について、具体的にお教えいただけますか。
積水化学工業の人材育成方針

ダイバーシティ、挑戦、チームワークなど、 フライングカー・コーポレーションを通して学ぶ

岡村さん
目指す姿を「全員の挑戦が社会課題解決の貢献につながっていく」としています。また、基本方針は以下の通りです。
① ダイバーシティの促進
② 挑戦の推奨
③ 際立つ人材の育成
④ チームワーク
⑤ 安心して働ける職場づくり
梶原
目指す姿の「社会課題解決の貢献」は御社らしいと感じました。また、「全員の挑戦」も目を引きます。基本方針について、もう少し教えていただけますか。
岡村さん
基本方針での「ダイバーシティ」と「挑戦の推奨」は、一人ひとりが自分の得意技を磨き、挑戦を通じて成長して行く、という意味合いです。「際立つ人材の育成」は、目指すキャリアに向けて自ら学び、成長することへ挑戦し続ける人材を、会社は応援していこうということです。フライングカー・コーポレーション(FCC)は、新入社員研修において、その基本方針を後押しするプログラムの一つと考えています。
梶原
ありがとうございます。個人的には、「ダイバーシティの促進」にFCCとのつながりを感じます。ダイバーシティは、一人ひとりを尊重する態度が大切だと思います。FCCで特徴的なワークである、ブロック模型を製作し納品する「組織活動」では、お客様と折衝する役割、設計する役割、部品を購入する役割など、役割に分かれ、チームで仕事を進めていきます。その際、違う役割の仲間の状況や立場を思いやり、尊重する態度が大切になります。
岡村さん
一人ひとりが持ち味を発揮するためには、周囲がその持ち味や、その得意技を尊重する姿勢が大切だと思います。
梶原
「チームワーク」の意味合いもお教えいただけますか。
岡村さん
会社としては、「オープンで対等なコミュニケーションと、お互いに尊重し協力する職場風土をつくる」としています。
梶原
「お互いに尊重し協力する」は、ダイバーシティとの関係性が見て取れます。「オープンで対等なコミュニケーション」について、岡村さんのお考えをお聞かせいただけますか。
岡村さん
オープンなコミュニケーションというと、包み隠さず情報を共有するイメージがありますが、その前提としては、お互いの立場や状況を尊重して、初めてオープンな関係になると思います。
梶原
一言でオープンで対等なコミュニケーションと言っても、実践は難しいですよね。お互いに言いたいことを言っても、場合によっては、相手は、その言葉を受け入れられないこともあります。それでは、お互いに尊重するダイバーシティとは真逆の関係になってしまいます。
岡村さん
そうですね、オープンで対等な関係をつくるのは、とても難しいことだと思います。
梶原
岡村さんのお話を聴いて、一人ひとりの持ち味や得意技を発揮できるようなダイバーシティの環境づくりのためにも、「オープンで対等なコミュニケーションのできる関係づくり」は、とても大切なことだと感じました。FCCでも、全体を通して、オープンなコミュニケーションを学んでいただけるよう、実施させていただいていると自負しております。また、オープンな場づくりは、プレスタイムの提供する全プログラムに貫かれた大切なテーマでもあります。
フライングカー・コーポレーションの実施風景

フライングカー・コーポレーションを社内講師にて、 オリジナルな形で長らく実施

梶原
御社には、FCCを長らくご活用いただき、本当にありがたく感じております。初代マニュアルで「ブロック模型:X号(現在はビエント号)」をお使いいただいていたということは、御社におけるFCCの最初の実施年度は、1985年から1996年の間と思われます。
津滝さん
1992年の新入社員研修で受講したという社員がおりましたので、 1985~1992年のいずれかの年になります。思えば、本当に長く実施しているのですね。
梶原
その時代のFCCとなりますと、社内講師の方が実施している会社さんが多いのですが、御社もそうでしたよね。
津滝さん
2000年のFCCの実施資料があったので読んでみたのですが、かなり当社風につくり込まれています。オリジナルなルールもかなり盛り込まれていたみたいで、今実施しているFCCからすると見慣れない単語、例えば、労災、操業停止、記者会見などが記載されていました。2014年の資料では、X号だけではなく、Y号Z号もありました。弊社のFCCは、以前はとても厳しいものだったと聞いています。赤字を出さないような組織活動が求められ、新入社員研修でも残業して対応していたようです。ですから、黒字になるまでモデル機を変えて、何回か組織活動を行ったのだと思います。
梶原
他社さんでも、社内講師の方の中には、独自に作り込み、実施していた方もいらっしゃるようです。御社もこれまで、社内講師で実施されていたわけですが、 2023年から、御社のFCCの実施に、弊社も協力させていただいています。その経緯についてお教えいただけますか。
岡村さん
2019年にFCCの社内メイン講師が引退した機会に、もう一度FCCの原点に立ち戻ろうということになり、プレスタイムさんにサポートをお願いしました。しかし、コロナで2020年は実施できなくなり、結局、2023年からの依頼になりました。
津滝さん
2021年と2022年は、オンラインで実施可能な「ニューモデル航空機」open_in_newを行っていただきました。
梶原
コロナ禍では、多くの会社さんに、「ニューモデル航空機」を実施させていただきました。コロナが去った後でも、「ニューモデル航空機」を継続している会社さんもありますが、御社では、2023年からFCCに戻されたのですね。
津滝さん
長らく新入社員研修で実施しており、社内の共通言語になっておりますので、FCCは外せないと考えています。2020~2022年度の新入社員にも、コロナ後に、プレスタイムさんに依頼して、改めてFCCを受講させました。
梶原
ありがとうございます。FCCを主要な研修の一つとして、伝統的に実施されている会社さんも多く、本当に感謝しております。御社では、2023年、2024年は、プレスタイムは、アシスタント講師としてFCCに携わらせていただき、2025年からメイン講師として登壇させていただきました。メイン講師をプレスタイム講師に切り替えていかがでしたか。
津滝さん
素晴らしいと思いました。講師による的確な指示や適正な指導は、さすがプロだなと思いました。2025年の新入社員研修では、「チームづくり」における難しい地図つくりのワークで100点満点がでました。わかりやすい導入やルール説明があったからだと感じています。
質の高いフライングカー・コーポレーションの実施

質の高いフライングカー・コーポレーションを 継続実施できるよう転換!!

梶原
社内講師から、段階的にメイン講師を弊社に移行された背景やいきさつについて、もう少し詳しくお教えいただけますか。
岡村さん
弊社はモノづくりの職人気質のある会社でして、自分の仕事や技術にプライドを持っている社員が多いです。社内講師にもその傾向があります。もちろん、よい面もたくさんあるのですが、仕事を自分流に作り込み過ぎて、結果、属人化してしまう傾向もあります。
梶原
仕事の属人化ですね。そのような課題のある職場は多いと私も感じています。
岡村さん
これまでのFCCを担当していた社内講師にもその面が多くあったと感じています。よかれと思ってのことだとは思うのですが、自分流のルールをFCCに組み込み、その結果、元々の育成体系との繋がりが希薄になっていきました。また、属人化に伴い、後任の講師に上手く引き継げない弊害も生んでいました。
梶原
津滝さんのお話では、結構な範囲で、オリジナルなルールややり方でFCCを実施されていたようですね。
岡村さん
社内講師の良さも理解していますが、現在では、スタッフ数も限られていますので、FCCの講師は、社内講師ではなくて、プロの講師にお願いしています。先ほどの人事戦略ではないのですが、人材開発スタッフも組織の中の役割を意識し、研修をマネジメントする役割に徹していこうと考えています。
フライングカー・コーポレーションへの期待

フライングカー・コーポレーションに期待していること

梶原
御社ではFCCを、これほど長く実施されているわけですが、お二人がFCCに期待していることを、お教えいただけますか。
津滝さん
弊社はメーカーですので、実際にビエント号(「組織活動」のブロック模型)の製作を通して、チームワークや納期意識などを実体験できることが大きいと思います。例えば、ビエント号を8機完納できなかったとか、完成させても品質検査に通らなかったとか、チームですることが、新入社員にとって、かなりインパクトがあると思います。また、「完納できなかった結果として給与が払えない」など講師からの解説も相まって、「うまくいかなかった」と思う気持ちだけでは済ませられないことをより深く実感することができます。
岡村さん
ビジネスマナーのロールプレーでは、電話応対でも商談でも、様々な状況の人やキャラクターの違う人と相対しますよね。「組織活動」でも、リーダー役の工場長は、FCC窓口と、難しいコミュニケーションを取りますし、設計や部品購入、品質管理などの役割に分かれて納期を厳守しなければならない。仕事となれば、よくあることなのですが、学生時代では、様々な人と協働することや、コミュニケーションを取るといったような経験は少ないと思います。指示されて動くアルバイト経験とは違い、主体的に動き、将来リーダーとなるための入口として、本当に良いビジネスシミュレーションの場になっていると思います。
梶原
FCCでは、全編通して「組織で働くとはどういうことかを体験的に理解すること」をねらいとしています。また、御社の新入社員のアンケートでも、「成果を上げる大切さや難しさ」「納期の重要性」「役割に対する責任感」など成果を出すことへの学びが多かったようですね。
津滝さん
働き方改革もあって、限られた時間のなかで、最大限の成果を出すことは、是非伝えたいことです。また、弊社の新入社員には、院卒など、ある程度成功体験の多い者の割合が高いと感じています。そのような新入社員たちには、働くうえで起きる、様々な立場や価値観を持つ人とのコミュニケーションや、メンバーと協力していくこと等の大変さも感じてもらいたいです。実際にFCCを通して良い気づきを得るきっかけになっていると思います。
新入社員研修の様子
梶原
最後に一つお教えいただきたいのですが、御社では、先輩社員を各チームに配していますね。その役割についてお聞かせいただけませんか。
岡村さん
以前は、チーム活動のフォロー役でした。具体的には、FCCの課題の進め方や考え方に対し、アドバイスをするイメージですね。一方、その活動に対するよい点、改善点などを指導・フィードバックする役は、人材開発スタッフが行っていました。現在では、スタッフの人数も限られていますので、先輩社員が、フォロー役ではなくて、チームメンバーの指導・フィードバック役を担っています。先輩社員に対しては、FCCの流れの確認と、新入社員に対する指導・フィードバックのポイントなどを学ぶ会を、毎年3月に、プレスタイムさんにお願いしています。
梶原
ありがとうございます。現在のフィードバック役のほうが、先輩社員にとっては、学べることは多いのではないでしょうか。
岡村さん
私もそう感じています。最後に、こちらからもお願いがあるのですが。当社も紆余曲折がありながらも、FCCを長く実施しておりますが、他社さんはどうなのか、とても興味があります。FCCを実施している他社さんと意見交換できる場があればいいと思います。
津滝さん
FCCは、新卒新入社員研修のイメージが強いですが、キャリア採用も増えていますし、4月一括採用も今後どのようになるかわかりません。様々な育成課題も共有できればと思います。
梶原
貴重なご意見ありがとうございます。いろいろと社会環境は変化しています。FCCは1985年から提供させていただいておりますが、時代の要請に合わせ、内容も変化しております。2025年は弊社が創立50周年ということもあり、FCCのノートやマニュアルを大きく改正しました。FCCも含め、人材育成全般について、他社さんとも意見交換できる場を、是非ご用意したいと思います。今回はどうもありがとうございました。
積水化学工業株式会社 岡村裕之様・津滝佳世様

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